第四百六十九夜

 

従業員に発熱した者が出て人手が足らぬからと急遽系列店へ呼び出され、勝手の違いに多少戸惑いつつも仕事をこなし、一息吐くともうとうに日付が変わり、草木も眠る頃となっていた。

労いの缶珈琲を受け取り、事務所の裏へ出て一服するが、梅雨空には星も月も無く味気ない。小降りながら雨の有るせいか虫の声も無く、聞こえるのは空調の大型室外機のファンの音と、糸杉の植え込みの向こうから時折濡れた路面を走るタイヤの音ばかりだ。

仕方なくスマート・フォンでニュースを眺めていると、目隠しに植えられた糸杉の向こうで、プシュと大きな音がする。大型のバスやトラックのエア・ブレーキから空気の抜ける音だ。続いてザワザワと十人程の人の降りてくる気配があって、やがてそれも散ってゆく。

事務所へ戻り、同じく休憩中だったこの店舗のスタッフに、
「この裏手って、何処かの工場か何かの寮だったりするの?」
と問う。もう最終電車が無くなって一時間だから、路線バスではなかろうと思ってのことだ。

すると彼は一瞬目を丸くしたあと事務所の神棚に手を合わせ、そこに供えてあった盛り塩を手に取って、
「これ、肩に振ったほうがいいですよ」
とこちらへ差し出す。
全く事情を飲み込めずにいる私へ声を潜ませ、
「ここ、裏通りを一本挟んでお墓なんですよ。別に実害がって話は聞かないんですけど、変な音を聞く人は割りといて、そこの神主さんに相談したらこれをって話だそうで」
というので、梅雨だからかすっかり湿ったその塩を一摘みし、指の腹でほぐしながら左右の肩に振り掛けた。

そんな夢を見た。