第四百五十九夜

 

買い物から帰宅して真っ先にトイレに駆け込んで用を足して扉を開けると、買ってきたばかりの雑貨を早速取り出して消毒している同棲相手が、
「そんなに我慢しなくても、外でしてくればよかったのに」
と、振り向かぬまま声を掛けてきた。

洗面台で手を洗ってから二人分の着替えを用意しながら、男子便所とは違うのだと軽く反論する。別に潔癖症というわけではないのだが、それでもこの疫病騒ぎの中で不特定多数の利用する公衆便所を使うのは気が引けるのだ。

買ってきた雑貨を早く試したがる彼の服を無理矢理に脱がして風呂に入れ、自分も外出した服を脱いで洗濯機を回して風呂に続く。流石に狭い。

少しでもウィルスの飛散を防ごうというつもりで初めに頭からシャワーを浴びるが、どれほど効果のあるものかは分からない。互いに自身の身体を洗っていると、
「トイレが怖いなんて小学生の頃を思い出す」
と彼が言う。

そう言えば、私の通っていた小学校にもトイレの花子さんの噂があった。校舎の三階、高学年の利用する階のトイレの三番目の個室を三回ノックするとという定番のものだ。ただ、三番目というのは手前から数えるのか奥から数えるのかは伝わっておらず、三つしか無い個室のうち真ん中だけトイレット・ペーパーの減りが早かったのを覚えている。

そんな話をすると、
「俺の通ってた中学校にも、花子さんの噂話があって、クラスの男子の何人かは遭遇したって聞いたことあるよ」
と彼が言う。
「男子が?」
と反応すると、
「小便器で用を足してると、個室に背を向ける格好になるだろ?そうすると、一番奥の個室の扉あたりから視線を感じることがあるんだって。で、怖くても用を足している最中だから終わるまでは逃げるわけにもいかない。そのまま用を足してると後ろから足音が近づいて来て、それがすぐ脇まで来ると今度は女の声で『まだ子供ね』って言って嗤うんだって」
と笑いながら語ったので、無言のままその顔にシャワーを浴びせてやった。

そんな夢を見た。

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