第四百三十四夜

 

昼のニュースを眺めながら弁当を食べていると事務所の電話が鳴った。慌てて口の中身を湯呑みの茶で流し込んで受話器を取ると、
「この間はどうも」
と工場近くの神社の神主からだ。直ぐに用件の目星が付き、
「例のアレが片付きましたか?」
と尋ねる。

それというのも一月ほど前のこと、この工場の裏手の川沿いに細い裏道があるのだが、住宅街の外れの土手沿いだから抜け道のように使う者がまれにあるくらいで交通量は多くない。夜になれば街灯も少なく人の目に付かぬというので、粗大ゴミの類を捨てて行く不届き者が跡を絶たずに閉口している。

敷地に投げ入れられるのは家電やらマットレスやら様々で、仕方なくトラックに積んで処分場へ運ぶのだが、この間ばかりはどう処分して好いものか判断が付かずに彼を呼んだ。

直径三十センチメートル、高さはその倍くらいか、カビと苔にまみれた円筒形の石で、朧気ながら手や布の襞のような彫刻の施された跡があり、第一感、古い地蔵の首が取れたものと見えた。他のゴミと一緒にして捨てるのも憚られて、地元で付き合いのある神主氏へ連絡したわけだが、駆け付けてくれた彼も
「お地蔵さんか道祖神か、何れにしても罰当たりなことで」
と悲しげな顔をしたのを覚えている。

その彼が、
「元のお寺さんが見つかりましたので、お知らせだけしておかねばと思いまして」
と言う。それは好かったと返すと、先方がこちらに礼をしたがっているとのことだが、ほとんど「厄介なゴミ」としか思わずに投げ出したのだからと断る。

しかしどうして相手が判ったのかと問うと、
「それがね、寺社やら骨董やら色んなツテを当たってみたんですが、ちっとも情報がありませんで。ところがある日、ある神社からメールが来ましてね」。
その電子メールには例の地蔵のようなものが赤い前掛けをして綺麗に祀られている頃の写真とともに、夢枕に狐が立って神社の名前を告げられた、この石像に心当たりがあったら教えて欲しい旨が書かれており、差し出し人は県二つ隔てた山の神社だったそうだ。

そんな夢を見た。

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