第四百二十六夜

 

一月も下旬になり、入試まであと僅かとなったある日、仲の良い友人に誘われてこっそり小遣いを持って登校した。買い食いをしようというのではない。学校近くの天神様へ、学業成就の御守を頂きに行こうと言う誘いだった。

確かに今年は家族での二年参りも自粛して、初詣にも行っていないし、平日の学校帰りの時間ならばそう混雑もしていなかろう。そう親に相談すると、どうしても急ぐ用でもないのだから人混みだけは避けることとの条件付きで許可を貰うことが出来た。

放課後になり、通学路を少しだけ逸れて天神様の階段を上ると、子供や孫のための御守を求めてだろう参拝客の姿がちらほら見えるが、初詣の頃ほどの賑わいは無い。友人と胸を撫で下ろしながら手水桶に置かれたアルコール・スプレで手指を消毒してから賽銭箱の前まで行って参拝する。

社務所の窓口で御守を包んで頂き、さて帰ろうとしたところで、友人が小さく悲鳴を上げてつんのめり、顔の脇に両手を突く格好で転ぶ。足元に気を付けないとと言いながら振り返ると、彼女は眉をへの字にして、右足が動かないと訴える。どういうことかと尋ねると、足の裏と靴、靴と石畳が張り付いたようにびくともしないのだそうだ。そんな馬鹿なと彼女の右足の脇にしゃがみ込み、左膝を折って体重をそちらに乗せさせ、右足を引っ張る。

が、不思議なことに本当にびくともしない。陸上部らしい筋肉質な彼女の脚に力を入れている様子も無い。何より、これだけ引っ張って靴が脱げないのが不思議でならない。

そうこうするうちに社務所から出てきたご婦人が友人に駆け寄って、彼女の左側にしゃがみ込む。
「大丈夫、落ち着いて」
と言い、友人の背を軽く払うように撫でると、途端に彼女の右足が地面を離れ、反動でよろけた彼女をご婦人が抱き止める。

全く訳がわからない。

助けて貰った礼を言うのも忘れて呆然としている彼女に、
「ごめんなさいね、うちの神様があなたのことを気に入っちゃたみたい。もしよかったら、春からアルバイトに来てくださらないかしら。ご利益があるのは受験の結果でわかるはずだから」
と、ご婦人は柔和に微笑んだ。

そんな夢を見た。