第四百二十夜

 

トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、
「ね、そういえば?なんだけど、宇宙人とかUFOとかって、興味無いの?」
と聞こえてきた。

私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客も少なくない。雇われ店長曰く、ビルのオーナが趣味と税金対策で経営しているそうで、商品は安く時給は高い。

正月の鏡餅をイメージした白玉とイチゴソース、ダイダイの代わりに金柑の甘露煮を乗せた和風パフェをつついていたポニーテイルの少女が、
「え?宇宙人はいるでしょ、これだけ宇宙が広いんだから」
とスプーンを休めることなく平然と答える。珍しく自分からオカルティックな話を振ったベリーショートの少女は輪切りのバナナをスプーンで掬いながら、
「ああ、科学的にはそう言われてるんだっけ。で、空間的にも時間的にも広大すぎて、異星間の……知的生命体?同士は出会えないとか」
と、ポニーテイルの少女を意外そうに見つめる。
「やっぱり、幽霊か妖怪みたいなのが好きなのね」
と結論を確認しようとするベリーショートの少女の言葉に、
「だからね、宇宙人は比喩なのよ」
と、ポニーテイルの少女はスプーンを握ったまま唇の前で人差し指を立てて見せ、内緒の話よ、と付け加える。

二人共この店の常連で、制服からして店の近くの女子校に通う高校生らしい。週に一度、金曜日の夕方にやってきては、部活で使い果たしたエネルギーを甘味で補給してゆく。たまに見かけない週は定期試験の期間なのだと店長が教えてくれた。店長がそういう趣味なのではない。彼女らはある意味でこの店の名物客で、店長からもバイト仲間からも一目置かれ、休憩中や閉店後の片付けのときなど、しばしば話題になるのである。

呆れて言葉を失ったベリーショートの少女が黙り込んだのに満足したのか、ポニーテイルの少女は再びスプーンを動かして白玉にホイップ・クリームを絡ませながら、
「エイリアンってのはね、異邦人とか、部外者って意味なのよ」
と、わざとらしく低い声を作る。ベリーショートの少女はウエハースにチョコレートとバナナとを盛り付ける作業をしながら、時折向かいの少女を呆れた目で見る。まあ聞くだけは聞いてあげるから好きなだけ喋りなさいと促しているらしい。
「『E.T.』って、結構古い映画だけど知ってる?」
「あ、こういうやつ?」
とベリーショートの少女が人差し指を伸ばすと、ポニーテイルの少女もそれに応じる。
「Tはテラストリアル、地球上の、とか、地上のって意味ね。テラフォーミングとかのテラ。で、Eはエクストラだから……」
と言葉を切るポニーテイルの少女に、
「外の、だから地球の外の生命体ってこと?」とベリーショートの少女が間の手を入れる。

それを聞きながらイチゴを載せたウエハースを齧ったポニーテールの少女は、
「外の、の他に余分な、とか極上のって意味もあるのよ。えーとほら、オリーブオイルのエクストラ・バージン・オイルとか聞いたことない?」
「ああ、聞いたことあるかも」
「つまり、人を人とも思わぬ支配者層の隠語として使われるの。レプタリアン、爬虫類人間って知ってる?あれもそうでね……」。

どうやらスイッチを押してしまったらしいと悟ったベリーショートの少女が追加で小皿の甘味を注文し、二人分の水を持ってくると言って席を立つと、
「今日は徹底的に説明してあげるからね」
とポニーテイルの少女は鼻息を荒くした。

そんな夢を見た。