第三百九十一夜

 

上下ともに最終列車が発車して、客の残っていないのを確認してからプラットホームの清掃を始めた。

以前に比べ乗客は戻りつつあるが、深夜に泥酔して来る者ははっきりと少ないままだ。店で飲む分を車中でというつもりなのか、車中やホームのゴミ箱に酒の空き缶は増えたが、それでも吐瀉物の処理や酔っ払いの介護に比べれば手間は無いも同然だ。

暫く前に止んだ雨の名残で濡れたホームを掃いていると、茶色い革靴を履いた足がちらりと視界の端を横切る。駅員は皆、黒の革靴が制服だ。ホームの確認をした際には、確かに誰もいなかったはずで、となると恐らくトイレに籠もっている間に最終電車を逃してしまった客だろう。割と良く有る話だ。最終列車の済んだことは電光掲示板を見ればわかる。用があればあちらから声を掛けてくるだろう。

そのまま掃き掃除を続けていると、ホームの半ばまで来たところでまた同じ茶色い靴がチラチラと見える。ホームをうろうろしているとなると酔っ払いかとも思うけれど、それなら大抵は話しかけてくるか、歌とも独り言ともつかぬ声を上げるかすることが多いのに、この人物は全く騒ぐ様子もない。ホームには化学繊維の箒が床を擦る音だけが虚しく響くばかりだ。

一体どんな人かと顔を上げようとして、はたと気付く。
――声どころか、足音一つ立てていないじゃないか。
急に周囲の気温の下がったような気がして、腰を丸めたまま急いでホームの端まで履いて周り、いざ後ろを振り向くと、ホームには矢張り誰の姿も見られなかった。

そんな夢を見た。