第三十九夜

雨上がりの早朝、雨露を湛えた稲の葉が青々と輝く隙間を縫って走る畦道を、犬に引かれて歩く。

と、犬が一鳴きして綱をひときわ強くグイと引く。

犬の視線の先を見ると、道に敷かれた砂利が盛り上がっている。いや、よくよく見れば周囲の砂利より幾らか色合いが赤味がかっている。ヒキガエルだ。

犬がちょっかいを掛けて毒にやられるというのはよく聞く話。慌てて綱を強く引き返して犬を御し、蛙との間に身体を入れると、犬がふくらはぎの辺りに頭を擦りながら抗議の唸り声を上げる。

狭い畦道のこと、このまま双方無事にすれ違う程の幅はない。先方には申し訳ないがここは一つ田んぼの中へ退いて頂こうと、蛙の目の前の地面を、間違っても蛙自身を踏むことの無いように気を付けながら、わざとらしく音を立てて踏み鳴らす。

が、蛙は身じろぎ一つせず、犬の方をじっと見ている。

もう一度、今度はもう一歩だけ蛙に近い所を踏み鳴らすが、蛙はそれでも動じない。仕方がないので蛙の腋をつま先で、脇の田の方へそっと押す。クイと押した分だけ蛙は身体を田の方へ回転させ、しかし顔だけはこちらへ向けて、どうやら犬の方を眺めているらしい。今度は尻を押してやると、押すに任せてじりじりと砂利の上を移動し、漸く脇の叢へ姿を消す。

これならば通れるかと、綱を手に巻いて短く持ち、引き摺るように犬を歩かせると、おもちゃを取り上げられた不満をワンワンと述べながら飛び跳ね、なかなか前に進まない。やっとヒキガエルから一メートルほど距離が取れたところで、叢の中から
「邪魔しやがって」
と、野太い声が聞こえた。

そんな夢を見た。