第三十夜

安アパートの二階にある自室は五月晴れで蒸し暑く、なかなか寝付かれない。

さっぱりしたものを飲みたくなり、財布を手にサンダルをつっかけて部屋を出る。階段を下ったところにアパートの設置した自販機があるので、鍵の心配もいらずこういうときには重宝する。

鉄の階段をなるべく足音を立てずに下り、道路に面した自販機の前に立つと小さく虫の羽音ような振動音がして、ぱっとLEDの照明が灯る。

震災以降だろうか、電力消費への配慮かそれともセンサの普及からか分からないが、人の近づかない間は照明を抑える自販機が増えた。防犯用の常夜灯代わりに自販機を置く場合もあり、その際には従来の常に明るいタイプも選択可能なのだと聞いたことがある。

そんなことを思い出しながら小銭入れから百円玉を投入し――大家の好意なのか、全品一律百円なのだ――柑橘系の炭酸飲料を選んでボタンを押す。

ごとりとガラス瓶の落ちる音。

軽く腰を曲げ、プラスチックの蓋を持ち上げて手を入れて中を探る。と、冷えた、しかし何かぐにぐにと柔らかい感触がして、ちょうど握手をするように手を握られた。

そんな夢を見た。