第三百七十九夜

 

シャンプーを洗い流した髪を肩口で絞りながらふと目を上げると、換気のため僅かに開けた窓の隙間からこちらを覗く片目と目があって、思わずキャアと悲鳴が出た。

自分でも驚くほどの声だったためか、母が直ぐに駆けつけ、窓を指して「目が、目が」と繰り返す私を見、事情を察したらしく、
「お父さん、覗き!」
と大声を出す。

同時に脱衣所兼洗面所の扉の前からドタドタと走り出す足音が玄関へ遠ざかり、玄関で金属音が鳴って扉を開ける音が続く。どうやら弟の金属バットを手に表へ出たらしい。大事にならなければよいがと、母からバスタオルを受け取って羽織りながら窓を振り返る。流石にもうそこに先程の目は無い。

間もなくザクザクと裏庭の石を踏む音が近付いて来て、
「逃したか、誰もいない」
といつになく低い父の声が聞こえてくる。ガラスを高温で処理した石で、多くの気泡を含むために軽く、踏めば高い音がして防犯になるのだと買ってきた父が裏庭に敷くのを、私も手伝った覚えがある。
窓を挟んで母が父に、無理をしなくていいと声をかける傍らで、私は薄ら寒さを覚えてバスタオルを強く身体に巻き付ける。
「もう平気だからね」
と肩を抱いてくれる母に頷きながら、あの目玉が現れる前にも後にも、石を踏む音が一切聞こえなかったことを思い出していた。

そんな夢を見た。