第三百六十夜

 

週三日、午前中のみと午後からのみの変則的な登校が始まって間もなく真夏日となり、午後の日盛りにアスファルトを歩いて帰宅すると、三月以来の運動不足ですっかり鈍った身体はへとへとに疲れてしまった。

水筒の水をちびちび飲み、ハンドタオルで顔を仰ぎながら日陰を選んで歩いてどうにか帰宅し、直ぐにシャワを浴びて汗を流すとようやく人心地付く。それでも夏バテのような怠さが残り、パートに出ている母の用意してくれた昼食用のサンドウィッチを一口つまむと、冷房を効かせた自室に戻ってベッドの上で横になる。

こんな体調では食欲も湧かぬ。呆っと天井を眺めながら、何なら食べる気になるかと考える。プリン、アイス・クリームと、甘いものばかり思い浮かぶが、どれも食事とは言えない。
――カレーならどうだろう。食べられそうだ。
一度そう思い付くと、「食べられそう」から「是非食べたい」へと変化する。時計を見ると、そろそろ母も帰宅する頃合いで、今から連絡をしても買い物を終えているだろうか。いや、なんなら自分で買い物をしてでもカレーを食べたい。

そう思って起き上がり、勉強机の充電器に乗ったスマート・フォンを手に取ると、玄関でガチャリと錠を開ける音が響き、
「ただいまー」
と母の声が続く。スマホを片手に部屋から顔を出し、
「お帰り」
と返すと、
「カレーの具、イカとホタテでいい?今日はエビのいいのが入ってなくて」
と両手に提げた荷物の片方を母がこちらに差し出す。それを受け取り台所へ運びながら、
「今日の晩ご飯、カレーなの?」
と問うと、
「そうよ、あなたが今朝『カレーがいい』って言ったんじゃない」
と訝しげな顔をする。いや、そんなはずはない。カレーを食べたいと思い付いたのは、帰宅して風呂を出た後のこと。朝はこのところの休み呆けで寝坊をして、天気予報も碌に見ず、シリアルとサラダだけ食べて家を出たのだ。
「あれ?今朝そんな話、したっけ?」
「あら?しなかった?」。
母は買ってきたものを流しに並べ、消毒のために洗剤で洗うよう私に言い付け、順に私から受け取ってタオルで拭き、冷蔵庫へ詰める作業を始める。牛乳パックを洗いながら、
「うーん、言ったかなぁ」
と尚も疑問を口にする私に、
「でもカレー、食べたいでしょう?」
と、母は自信満々に笑顔を浮かべた。

そんな夢を見た。