第二十九夜

寝付かれずに布団の上で身を捩る。何とは無しに目を開けると、何が光源になっているのか、青く暗い部屋の様子が辛うじて見える程度には明るい。

どきりとした。視線の先で、扉が閉まっていたからだ。寝室の扉は寝る前に必ず、細く開けておく癖がある。閉まっていると気味が悪く、寝付きが悪くなるのだ。

旅行で知人と旅館の寝室を共にするような場合にも必ずこれを要求し、そして殆どの場合、「扉が中途半端に開いていたり、襖に隙間が空いているのが気味が悪いという話は聞くが」と云って珍しがられるが、大抵は扉・襖の開閉に頓着しないからと要求を呑んでくれはする。

そんなときには簡単に持論を説き、故なきことではないのだと主張することにしている。

つまり、こうだ。

扉が閉まっていると、その背後、扉を挟んだあちらに何が居るか知れないではないか。こう云うと定まって、だったら何故、あちらの様子が全て見通せるよう全開にせず、細くしか開けないのか、と尋ねられる。

それには、暖房や冷房の兼ね合いもあるが、細く隙間が空いてさえいれば十分なのだと説明する。あちら側に何者かが居た場合、こちらに害意なり何なりの興味を抱いているのなら、その細い隙間を覗かずにはいられないだろう。つまり、あちら側に何かが居ようと居まいと、こちらに害を成すつもりの者が居ないことは、隙間にこちらを覗く目の無いことだけで十分に確認できるのだ。

これに対して最も多い反応は、今一つ釈然としないといった表情に、口先だけはなるほどねぇといって、敢えて反論をするような重大事でも深く追求するほど興味のあるような話題でもないことが確認できたというような種類のものである。

さて、落ち着かないのでゆっくりと身体を起こし、勇気を振り絞って立ち上がり、扉へ向かって一歩一歩歩く。背筋がやけに寒いのは、ノブを掴んだ瞬間にあちらからノブを回されるのではなどと馬鹿げた想像をしたからか、布団から抜け出したせいか。

そっとノブを掴み、立て付けの悪い扉が音を立てぬようそろそろと、扉の厚さの倍程度だけ引き開ける。これであちらを覗くことのできる最低限の隙間が出来たことを確認し、布団へ戻る。敢えて扉の向こうを覗き込み、確認するようなことはしない。害意のある者が居るなら、あちらからこちらを覗き込んでくるはずだからである。

布団に入り隙間が目に入った瞬間、月に掛かる雲の風にちぎれたか、それとも街灯を遮る木の葉の風に揺らいだか、隙間の闇がぬらりと光って見える。

そんな夢を見た。