第二百八十九夜

 

そろそろ日付が変わる頃合いに、レジスタをアルバイト仲間に任せ、バック・ヤードから明日発売の雑誌を運び出すことにする。

どこのコンビニエンス・ストアでも同じというわけではないかもしれないが、駅の目の前のこの店舗では、最終電車で帰ってきた人達で店が忙しくなる前に商品の補充や雑誌の入れ替え作業をすることになっている。

雑誌の束を床に山積みにし、その脇にしゃがみこんで陳列の期限を迎えたものを取り出してラックの空きを作っていると、尻を下から力強くぐいと押される。

何事かと振り返っても、背後の棚との狭い隙間には誰もいない。と、内腿に柔らかな毛の塊が擦れるのを感じて股間に目を戻すと、一匹の三毛猫と目が合う。
「あら、入ってきちゃダメでしょ」
と思わず猫撫で声が漏れる。

彼女はこの辺りの地域猫で、片耳に桜の花弁のような切れ込みがある。店の裏口あたりをうろついていることも多く、餌の売上への貢献を買われ、店の裏の大型室外機にならんで、店長お手製の発泡スチロールの寝床を持っている。一日一回、深夜に彼女へ餌をやるのはバイト仲間のうちで最も人気のある仕事だ。

以前は店に入って来ることも度々あったというが、私がここでバイトを始めてからは始めてのことだ。彼女の首根っこを優しく摘み、尻に手を回して抱え上げて立ち上がり、店の裏口へ向かう。

自動ドアを潜るや否や、背後からガラスの割れる音と振動が、鼓膜と身体を揺らす。

通りに面したガラス窓を突き破り、先刻まで私のしゃがみ込んでいた雑誌ラックからその奥の棚まで、自家用車の前半分が横転しながら突っ込んでいた。

そんな夢を見た。

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