第二百八十夜
ホームルームが終わると、皆が椅子を机に乗せ、教室の後部に寄せて床を広く開けた。見晴らしが良くなったと思う間もなく、そこへ段ボールや模造紙、絵の具が広げられ、ガヤガヤと思い思いにお喋りをしながら、ポスタや看板を作り始める。
夏休み明けの定期試験が開けて、学校全体が文化祭を控えた独特の雰囲気に包まれている。小学校の頃の遠足前夜に、早く寝なければと思いながらなかなか寝付かれない、あの高揚感に似ている。
教室の角に机を六台つなげて作った長方形の卓へ呼ばれ、席に着くように促される。六脚の椅子が埋まると、卓の短辺に立った大柄な短髪の少女が、大げさな効果音とともに胸の前へ黄色い箱を突き出す。
タロット・カードだ。
クラスの出し物を議論した際、余り準備に時間を掛けたくない、文化祭中の拘束時間も取られたくないということで、喫茶店の真似事をしようというところまではすぐに決まった。が、ただの喫茶店では面白くない、かといってコスプレだの女装だのは文化祭の出し物として品が無いと言って担任に駄目を出された。そこで彼女が提案したのがタロット・カードその他の占いを併設する案だった。剣道部の彼女にそんな趣味があったのかと、そのときには驚いた。
一定の手順を踏むだけで、カードの意味を纏めたカンニング・ペーパーを見ながらなら誰でもできるという主張で、これが通った。この卓に集められたのは、その占い師役を死亡した者たちだ。
一通り彼女が説明を終わると、当然のように実際に占ってみようという話になり、彼女が手近に座っていたポニー・テールの子を占う。占うと言っても、三角形に並べたものから、一枚を選んで捲らせる単純なものだ。
死神の正位置が出る。
「あらら、運が悪いね」
と皆軽い調子で笑って流そうと努めるが、占われた方としては気分が悪いに決まっているから、
「もう一度」
とせがむ。剣道部の少女が短い髪を掻きながら、
「おみくじと一緒で、いい結果になるまで繰り返すものじゃない」
と断ってもしつこく食い下がり、仕方がないと再度、カードを良く切り、一枚、二枚、三枚のカードを順に並べて三角形を作る。ポニー・テールの子はじっとカードを睨んでから、一枚を慎重に摘んで捲る。
死神の正位置だった。
そんな夢を見た。
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