第二百七十九夜

 

せめて気温の上がり切る前にと、開店直後の量販店で食料を買い込んだ。一週間分の食料のずっしりと重い買い物袋を両手に提げて、額を垂れる汗を拭うこともままならないまま住宅街の細い路地へ入る。

大通りなら建物や街路樹の影があるが、一面をアスファルトが埋め尽くし、並んだ室外機から熱風の吹き出す裏路地の熱の籠もり方といったら尋常でない。

漸くアパートが見えてくると、その手前の一軒家で、庭木に水を撒いているのが目に入り、気分だけでも少々涼しい。

白髪のご主人もこちらに気付き、日に焼けた顔に笑顔を浮かべて会釈しながら、こちらへ水の掛らぬようホースをあちらへ向ける。
「暑いですね」
と社交辞令を口にして、こちらも頭を下げる。

植え込みの紫陽花の花時は過ぎてしまったが、いつも緑と花とを絶やさぬ家で、今は向日葵や菫が花を付けている。横を通り過ぎようとして、朝顔のような漏斗型の花を幾つも付けた鉢植えが塀の陰から覗いた。

店で歩き回ったため、時刻は既に正午に近い。こんな時間まで萎むことなく花を咲かせるからには、
「昼顔ですか?」
と尋ねてみる。するとご主人は、
「いえ、ただの朝顔ですよ」
と人の好さそうな笑みを浮かべた後、
「そういえば何日か前、登校中の子供達がキレイだと褒めた後、『土日はもっと遅くまで咲いてないと、皆に見てもらえない』なんて言ってましたよ」
「じゃあ、それを聞いて咲く時間をずらしたんですかね」
と二人で笑った

そんな夢を見た。