第二百五十七夜

 

土曜の夕方、ゼミの先輩のアパートに男六人が酒とツマミを持って集まった。

雷と窓を叩く雨音を聞きながら麻雀を打ち続け、気付くと雨が小康状態になっている。テレビのニュースが引き続き雷雲の西から湧き続ける予報だと言うから、今のうちに夜食や酒の追加を買い出しに行くことに決まり、話し合いの結果、負けの込んでいる三人が渋々部屋を出ていく。

麻雀を止め、雨も止み、部屋は急に静かになった。時折遠くの雷鳴が微かに聞こえる。
「どの辺りで鳴ってるのかな」
と、先輩の一人が卓を立って窓辺へ行き、カーテンをずらして窓の外を覗き込む。
伸びをして床に寝転がった私に、
「おい、あれ何だ」
と手招きをする彼に促されるまま、その指差す辺りに目を凝らすと、谷の斜面に建つこのアパートの向かい側に赤々と揺れる光が見える。
「球電……って、あんな色してるもんですかね」
と呟いてみたものの、自信はない。落雷の後、電気を帯びた発光体が観測される現象で、人魂の正体ではないかと言われているというような話をどこかで聞いた覚えがある。
「向かいの駐車場なら、あんまり見ないほううがいいぞ」
と言う部屋の主の先輩声に二人して振り向くと、酒の強くない彼はグラスに缶のトマトジュースを注ぎ、塩と胡椒を振り掛けながら、
「この部屋、うちのゼミ生が代々借りてて、色々と話が受け継がれてるんだ。二十年くらい前に、あそこでガソリンか何かを被って焼身自殺した人が居て、それ以来たまに変な光が見えるとか何とか言う話があってな」
と淡々と語る。

嫌な話を聞いたものだと、思わず先輩と顔を見合わせる。

その顔を見ながらトマト・ジュースを飲む部屋の主の元へ、台所で寝ていた三毛猫が寄ってきて餌でもねだっているのか甘えた声を出す。
「そういえば、こいつも代々この部屋で飼ってるらしいんだけど、いつから飼ってるのか誰も知らないんだってさ」。
そう言って彼は目を細め、三毛猫の耳の間の毛をごしごしと撫でた。

そんな夢を見た。

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