第二百五十四夜

 

出張から返ってきた夫が息子に飛行機の模型を渡すと、彼は早速居間のソファで箱を開け、夢中で組み立て始めた。
それを横目に寝室へ向かい、背広を脱いでクローゼットに掛けた夫が、
「そういえば、行きの飛行機の中で妙なものを見た」
と言う。冗談交じりに、
「UFOか何か?」
と問うと馬鹿真面目な顔をして、
「ああ、今の段階では未確認の飛行する物体であることは間違いない」
という。普段から怪力乱神を語らず、超自然的な物事には懐疑的な夫がそんなこと口にするのが珍しく先を促すと、服を着替えながら淡々と語り始める。

東北地方の上空を北へ飛んでいるとき、下の景色を眺めようと窓を除くと、緑の森を背景に、陽光を反射してちらちらと白く光るものが見えた。目を凝らすとどうやら、白く長い布のようなものが、風に吹かれるようにして飛んでいたそうだ。
「一反木綿ね」
と言葉を挟むと、そういう妖怪が本当にいるかどうかは別として、確かに奇妙だという。何が妙かと尋ねると、
「その布は、まるで竿に付けた旗だとか、凧から伸びる足のように綺麗にはためきながら飛んでいたんだ」
と言い、ネクタイの両端を左右の指先に摘んでパタパタとはためかせる。少し間をおいて、
「しかし、どこにも一端を固定せずに風に吹かれたら、直ぐによじれたり、丸まったり、とにかく、綺麗にはためくなんてことは起こりそうもないと思うんだがなぁ」
と、眉間に皺を寄せた。

そんな夢を見た。

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