第二百二十二夜

 

通勤電車の乗り換えに歩くコートの肩を背後から叩かれ、知り合いかと思い振り返ると、らくだ色のコートにシルクのマフラーをした初老の紳士が、いたずらを咎められた犬のような目で私を見ていた。

全く見覚えのない男性である。

身長の差があるから彼が私を見下ろす恰好なのだが、それでも其の目は「縋るような目」といって差し支えのないものだ。

心の中で「またか」と思いながら、身形の割に頬のやつれた紳士へ、
「何か」
とだけ尋ねる。

何故か知らないが、私はこうして見知らぬ他人から話しかけられることがやたらと多い。それも、単に道を尋ねられるのでも、詐欺や勧誘の類でもない。
今回も例に漏れず、
「ご相談があるのです。どうか助けていただけませんか」
と来る。

母の家系の体質らしく、何故かやたらと他人から「霊的なトラブルを解決してくれ」と頼られる。若い頃にそれで苦労した母が編み出した対処法を私も習い、何故かいつもそれで話が着く。

私ももう慣れたものだから、通勤に使っている鞄のポケットから半紙で包んだ和紙を取り出して、
「私には何もできません。気休めですが、これをどうぞ」
と手渡す。すると紳士は何度も頭を下げて礼言い、こちらが踵を返して乗り換えに向かっても、背中にずっと熱い視線を感じた。

そんな夢を見た。