第二百八夜

 

クリスマスの晩だというのに夜番で、詰め所に先輩と男二人で暇を持て余していた。
泥氏だってクリスマスくらいは仕事を休みそうなものだが、先輩に言わせると案外そうでもないそうだ。いくら仕事熱心でも泥棒では感心しないが、
「せめて我々のところにもサンタが休みをプレゼントしてはくれまいか」
と先輩が零す。

余り手持ち無沙汰に、
「サンタって、幾つの頃まで信じてました?」
と問うと、
「いや、サンタは居るよ」
と、皺の寄りはじめた四十男が真顔で答える。まさか本当に信じているわけではあるまい、からかっているのかと尋ねると、子供の頃に一度、本当のサンタクロースからのプレゼントを知っているという。どういうことかと尋ねると、
「両親が、俺の生まれる前から黒猫を飼っていたんだがな」
と切り出す。

小学校に上がった年かその前かのクリスマスの夜、枕元に白い靴下を置いて寝た。朝起きると枕元にプレゼントの玩具が箱に入って、綺麗に包装されて置かれおり、大いに喜んだ。

が、しばらくして靴下が無くなってるのに気が付いた。靴下というのは、片方無くなると役立たずなもので、これは母に怒られると必死になってあちこち探すも見つからず、寝間着姿のまま途方に暮れていると、例の黒猫が起きてきて目の前で伸びをする。

その前足を見て驚いた。昨日の夜まで黒かった右の前足の先が、手首の辺りからすっかり白くなっている。元々白かった左前足と、綺麗に揃って白い靴下を履いている様に見えた。
「親父とお袋も、もちろん驚いてアルバムの写真を確かめたんだけど、どれもちゃんと両足に手袋をしててなぁ。何だったんだろうな、あれは」
と、彼は遠い目をして呟いた。

そんな夢を見た。

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