第二百六夜
明朝の会議で配布する資料を作り終え、手元に印刷した書類をコピー機にセットして給湯室へ向かう。事務所に独り居残るときは暖房を付けずに厚着で誤魔化すのが昔からの癖になっているので、複写を待ちながら冷えた体に珈琲でも入れようというつもりである。
草臥れてきた機械が懸命に仕事をする音を背中に聞きながら珈琲を淹れていると、甲高い電子音と共にコピー機が停止する。
――ああ、そうか。
冬にはよくあるのだが、室内の温度があまり低いと紙を送り出すゴム製の部品が固く粘りを失って、しばしば紙詰まりを起こすのだ。
珈琲の落ちるまでに片付けてしまおうとコピー機へ戻り、いつものように各部位を開いて詰まった紙を取り出し、脇に備え付けのブロワでホコリを飛ばし、ボロ布でゴムを拭い、開いた部分を閉じる。いつの間にか慣れたもので、機械の中を見ずに作業ができる様になっていた。後は機械に確認させれば、きちんと動くはずである。
が、再び電子音が鳴り、液晶画面に紙詰まりの旨が示される。
おかしいとは思いつつ、それでも機械が文句を言うのだから異状があるにはあるのだろう。もう一度各所を開いて、普段は紙の詰まったことのない部分を目視する。が、見える限り何処にも紙は詰まっていない。素手で触れて良いものかとは思いながら、陰になって見えない部分へ手を伸ばすと、ざらりとした感触が棒状の部品に絡みついているのが分かり、毟るように引っ張る。
ブチブチと嫌な音がして、コピー機は傷んだ黒髪をずるずると吐き出した。
そんな夢を見た。
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