第二百四夜

 

南の出身なもので、冬の日本海側をドライブしたいと安易に思ったのがいけなかった。

嫁の実家へ帰省するのに、手間だからよせと言うのを押し切ってスタッドレスタイヤに履き替えて車で向かうことにしたのだが、特に高速を降りての雪道は大いに気を遣う。また、雪道に慣れた地元の人々の邪魔になっているのがよくわかり、気疲れもする。

日本海側の道を走る距離は短い方がいい、実家は秋田でも岩手寄りの盆地だから、どうしても車で行くなら岩手川から山に入れとの嫁の提案を渋々受けたのだが、
「秋田の側を走ってたら、雪はこの倍くらい?」
との問に、
「いや、五倍は下らない」
と返されて、素直に条件を飲んで良かったとつくづく思う。
「そもそも新幹線で来ればよかったのよね」
と、膝の上のダックスフントに話し掛ける嫁へ、来年からはそうすると頭を下げる。

八幡平の山道を抜けて鹿角の盆地へ出ると、
「後は谷川沿いの道を行くだけだから」
と励まされ、田畑の広がる盆地から、左右から山の迫る谷へ車を走らせる。

湯気の立つ川面を珍しがりながら暫く進むと、急に犬が吠え始め、あやしてもおやつをやっても言うことを聞かなくなった。

用を足したいのかもしれぬと言うので車を端に寄せて停め、嫁が首に紐を付けて外に出る。と、犬は途端に駆け出して、小さな体で嫁を引っ張りながらあっという間に山の中へ消えてしまう。

慌ててエンジンを止めて車を降りると、斜面の枯れ木に隠れるように石段がある。これを上ったものかと上がってゆくと、息の切れた頃に漸く石の鳥居が見え、その向こうで犬を抱えた嫁が器用に手を合わせて本殿を拝んでいる。

追いかけて来たから良いものの、私を下に待たせたままのつもりでゆっくり参拝しているのかと思うと腹が立ち、犬を境内に入れて良いものかと咎める。
「あら、ここは犬の神様の神社だもの。この子も神様に挨拶したくて吠えたのよ、きっと」
と犬の顔を見る。先程の吠えよう走りようとは打って変わって大人しく抱かれている彼を見ると、そういうこともあるかもしれぬと思われた。

そんな夢を見た。