第二百夜

 

家路に吹く風の予想外な冷たさに、遅い夕食を確保しに立ち寄った深夜営業のスーパーで葉物と鶏肉を買わされた。

簡単に煮込みうどんにでもして暖を取ろう。

そんな夕餉への期待を頼りに人気のない寒空の下を歩いて安アパートへ辿り着く。

鞄のポケットから鍵を取り出して鍵を開けようとすると、何の手応えもなく鍵が回る。
――出掛けに施錠を忘れただろうか。
そう思いながら鍵を抜き取りノブを掴む。その瞬間、ノブが戸の向こうから捻られ、戸がこちらへ押されるのを感じ、体を押し付けて戸を閉じる。

全身の毛穴が開いて、どっと汗が吹き出す。

中に誰かが居るのなら、このまま警察を呼ぶべきか。ここが開かないとわかれば、窓から逃げるだろうか。窓から逃げた上でこちらを襲うことはあり得るだろうか。そんな考えが次々に頭をよぎって、ふと気がつく。十秒か一分か、過ぎた時間の感覚に自信はないが、それにしても中からの物音が一切ない。

空き巣が逃げるのなら足音なり、窓のサッシの開く音くらいはするだろう。家主が帰宅したとわかった上で中に居座っているというのなら、余程の大馬鹿者だということになる。

変な錯覚でも起こしたのだろうか。確かに、ここのところは深夜の帰宅が続いていたし、鍵が開いていたことから妙な連想をしたのかもしれない。

音を立てぬよう、そっと体を戸から離す。あちらから開けられる気配は無い。ならばやはり錯覚だったかとも思うが、鍵の開いていたのは事実で、万一誰かが上がり込んでいたらと思うとゾッとしない。居間や便所、風呂場の電灯を点けながら不審者のないことを確認する作業を一人でしなければならないとなると、それほどの勇気は無い。

何事もなければ頭を下げようと、スマート・フォンで警察へ連絡を入れることにした。

そんな夢を見た。