第百九十四夜

 

満員の急行列車が駅を通り過ぎようとして、けたたましい金属音と共に急ブレーキを掛けた。と、目の前の座席で先程まで船を漕いでいたセーラ服の少女が、急に体を強張らせて呻き声を上げる。

緊急停止を詫びる車内放送と女性の苦しげな唸りだけが響く車両の中は、何か冷たく粘着質の空気に包まれていた。

人がよく物怖じしない質なのだろう、初老の御婦人が私の横から少女へ、どこか悪いのかと声を掛ける。しかし、少女は一層声を張り上げ、苦しげに喘ぎながら痛い、痛いと繰り返すばかりだ。

御婦人が屈み込んで少女の背をゆっくりと摩るが、それでも少女は反応せず、身を捩りながら痛みを訴え続ける。

車内放送が一時的な運休を宣言し、順に線路を歩いて最寄りの駅まで戻るよう誘導を始めると告げると、少女がはっと息を飲むように声を上げる。

不意のことに驚いた御婦人と初めてその顔を見た少女とが目を合わせ、暫く互いに沈黙する。その様子を見て、御婦人も私と同じ印象を抱いたらしい。
「気が付いた?」
「え、はい……」
「どこも痛くない?」
「え?えぇ……でも、どうして?」
「あなた、ずっと痛い痛いと言っていたのよ。でも、寝ていらしたんなら……」
「そういえば、嫌な夢、とても痛い夢を見ていたような……」。
 そう言うと少女は両手で方を抱いて身を竦める。その背をゆっくりと撫でながら、
「跳び込んだ人の気持ちが入っちゃったのかしらね」
と、御婦人が呟いた。

そんな夢を見た。