第十九夜

コートの襟を立て背を曲げ、北風の中を歩く。冬の陽は明るいばかりで暖かくない。

せめてもの暖を取ろうと、両手をコートのポケットへと入れると、右手に冷たいものが触れた。

歩きながら手探りすると、どうやら薄い円形で硬いものが三枚、手で触れるうちに直ぐ温まったこととその感触から、金属製の硬貨だろうか。ポケットに硬貨を直接入れる習慣はないのだが、いつの間にこんなものが入ったのか、見当もつかぬ。

一枚は側面に溝が彫られ、残り二枚にはそれがない。一枚は溝のあるものと同じ直径で少し薄く、一枚はそれらより一回り大きく少し厚い。他と重ねて触っていると、最も大きいものはどうやら円盤状ではない。六角形か八角形だろうか。その一枚だけを親指と中指で挟み、人指し指で縁をなぞって角を数えてみる。
と、
「あの……」

不意に男の暗い声がし、左肩を叩かれて振り返る。が、そこには誰の姿もない。当然だ。右手に気を取られながら歩いていたといっても、背後から近づく者があれば足音で分かる。それがなかったからこそ「不意に」と感じたのだから。

まあ、気のせいに違いない。人間というのは存外頻繁に幻覚を体験するもので、ポケットや鞄の中の携帯電話が振動しているように感じる幻覚などというのも珍しくはないという。

気を取り直して歩き出すと、右手に何も持っていない。驚いて硬貨から指を放してしまったかと思いポケットの中を探ると、暫く指から離れていたためか再び冷たくなった硬貨が指に触れる。が、二枚だけだ。ぴったりと重なる、側面に溝のあるものと無いもの。小指で二枚を握り込んでポケット中を探るが、角ばった硬貨は、無い。

そんな夢を見た。