第百八十二夜

 

夫が週末に出掛けるというので、いつもより多めの食料を買い込んで車に積んだ。ほんの数キログラムの差だろうが、アクセルもブレーキも若干聞き難いような気がするから不思議なものだ。

大通りを折れて自宅へ通じる小路へ、仕出し店の軽自動車に続いて入る。大袈裟とは思いながら普段より車間距離をとって走りながら、小さな交差点を二度通り過ぎたところで前を行く車が急ブレーキを踏み、間を置かずに扉から運転手が跳び出して車の前方へ消える。

こちらは幸い余裕を持って停まることが出来たが、不測の事態にどうしてよいか分からない。そもそも、急ブレーキの理由さえ不明である。人身事故ならば証言のためここに留まったほうがよいのだろうか。そうなったらどのくらい時間を取られるだろう。生鮮食品が駄目になりはしまいか。

そんなことを考えていると、運転手の男が血相を変え、大きなランドセルを背負った少年の手を引いて、こちらへ早足でやってくる。小さく窓を開けて話を聞くと、「少年と、それを追いかける少女が角の手前から跳び出してきた。二人一緒に撥ねてしまったのだが、少女が何処にも見当たらない。幸い彼は軽症のようで、勿論警察と救急には連絡をしてあるのだが、一緒に少女を探してくれないか」
という。

車の下に入り込んでいないかと言っても、当然調べたが居ないという。では手伝おうと言って窓を閉めようとすると、
「いいよ、そんな子、居ないから」
と、少年がぼそりと呟いた。

そんな夢を見た。