第百七十七夜

 

畑仕事を終え、木陰で弁当を広げようとしてうっかり握り飯を落としてしまった。握り飯は雑木林の斜面をころころと転がり落ちたかと思うと、不意に視界から消える。

土まみれになったそれを食う気はないが、何処へ行ったか気になって身を乗り出すと脚が滑って尻をつき、そのまま斜面を転げ落ちる。

気が付くと、額に濡れた手拭いを乗せて仰向けになっている。何やら騒がしい。
「お気付きですか、良かった良かった」
という声がして振り向くと、鼠がこちらを見上げて微笑んでいる。どうやら彼だか彼女だかが介抱してくれていたようだ。その向こうではネズミたちが宴会をしている。
「おじいさんのおむすびで、久しぶりに柔らかいご飯が食べられるといって、皆はしゃいでいるのです」
と鼠が頭を下げ、お礼だと言って小槌を差し出す。振ると米の出る不思議な小槌だという。
「そんな物を持っているのなら、米くらい食べ放題だろうに。どうして私にこれをくれるのか」
と尋ねると、
「私達は火を使ってお米を炊くことが出来ないので、これを持っていても硬いお米しか食べられないのです。どうか、これで出したお米を炊いて、私達に柔らかいご飯のおむすびを分けて頂きたいのです」
と顔の前で手を合わせる。

人語を話すくせに妙なところだけ現実味のある鼠だった。

そんな夢を見た。

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