第百七十三夜

 

麻雀に誘われて友人宅へ招かれた。彼のアパートへは初めて訪ねるのだが、スマート・フォンへ送られてきた地図情報のお陰で特に迷うこともない。便利な世の中になったものだ。

酒とツマミの入ったレジ袋を片手に呼び鈴を鳴らすと、鍵は開いているから入れと言う。玄関には既に三足の靴が乱雑に脱ぎ捨てられていて、いい歳の男達が揃いも揃ってだらしのないことだと呆れる。他人の靴を勝手に揃えるのも嫌味かと思い、自分の靴だけを揃えて上がると、早速酒とツマミを広げて卓に就く。

何半荘かを打ったところで酒の残りが心許なくなり、休憩がてらに買い物へ出ることにする。

玄関へ向かうと、私の靴が片方無い。幾度か用を足しに席を立った者がいたから、きっとそのときに悪戯したのだろう。
「おい、靴を隠したのは誰だよ。子供みたいなことをしやがって」
と振り返ると、
「ああ、すまん。お前は俺の家に来るの初めてだったか」
と何やら察した風に部屋の主が押し入れの襖を開けて首を突っ込む。暫くゴソゴソとやりながら、
「次から、ウチでは靴を揃えないでくれ。揃えると……ああ、あったあった」
と押し入れから、私の靴を引っ張り出し、
「何故か片方だけ押入れにワープする」
と断言しながら私にその靴を差し出す。

それを受け取りながら、
「そんな馬鹿な。からかっているのだろう」
と口を尖らせると、
「じゃあ、誰かがこの靴を押入れに隠したとして、気付かないはずがないだろう?こんな狭い部屋で、襖を開けるんだぜ?」
と腰に手を当てて軽い溜め息を吐いてみせる。

確かに、彼の言う通りだ。
「しかし、なんでそんなことが……?」
という私に、
「さあな。でも、他に害があるわけでなし」
と、彼は軽く肩をすぼめてみせた。

そんな夢を見た。

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