第四百三十一夜

 

会計を終えた商品を買い物袋に詰め終えて、一階出口へ続くエスカレータへ向かうと、トイレの前のベンチに小さな子供を抱いた若い母親が座っているのが見えた。

言葉を話し始めたばかりの頃なのだろう、母親の肩越しに通りを見下ろして指差しては「ぶーぶ」、母親を指差しては「まーま」と楽しげに笑う。トイレに行った旦那さんを待ってでもいるのだろうかと思いながら、その横を通りがかる。

と、その子がくるりとこちらを振り向いて、
「わんわ、わんわん」
とこちらを指差す。

思わず振り向いて母親と目が合うと、
「おねえさん、わんわんじゃないでしょう」
と苦笑しながらこちらに頭を下げる。

小さな子供の言うことですから、というつもりで笑みを作りながら首を左右に振って、そのままエスカレータに乗る。

後ろ髪を引かれて振り返ると、母親がもう一度こちらに頭を下げる。その腕の中の子供が再び、
「わんわん」
とこちらを指差す。それを見て、その子の指の向かう先が微妙に私からは逸れているのに気が付く。顔の僅かに左、私の顔の横の空間、左肩の上。

結局エスカレータが進んで互いの姿が見えなくなるまで、子供は微妙に腕を動かして私の肩の上を指差し続けた。

そんな夢を見た。

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