第六十一夜 浜で友人たちと花火を見た帰り、路面電車で家路に就き、最寄りの駅で彼らと別れて一人山道を歩く。 花火の余韻の名残惜しく、木々を抜ける夜風に吹かれながらゆっくりと歩いていると不意に、 どん、どどん と大きな音が腹 […]
第五十九夜 ある山奥の神社へ用があり、朝から汽車を乗り継いで最寄りの駅に付いたときには午後一時を回っていた。バスの来るまでの暇を、待合小屋の日陰で居合わせた地元の老人達と世間話をして過ごす。ようやく着いたバスから家族連れ […]
第五十夜 「お、そろそろだな」。 友人の声に壁掛け時計を見やると、十時半を三秒、四秒と過ぎてゆくところだ。 「本当に?」 と尋ねると、 「後三十秒で分かるさ」 と笑って返す。 最低限の家具だけが無機的に並ぶこの部屋の主曰 […]
第五十六夜 もう夜も半ばというのに相変わらず不快指数の高い空気の絡みつく中を、自転車で友人を先導しながら走る。 私を追いながら、アスファルトとコンクリートが日光を溜め込むのだ、密度の高い住宅やビルがエアコンを点け続けるか […]
第五十四夜 もう今日は休もうかと考えていた深夜、台風一過で雨が止んだのを見てこれ幸いと着替え、ジョギングに出る。出不精で運動嫌いだったはずの私がひと月もしないうちに、一日走らずにいれば尻がムズムズと落ち着かなくなっている […]
第四十六夜 西の空に半月の沈みかける頃になって漸く一仕事を終え、社用車を駐めたコイン・パーキングまで住宅街の路地を歩いている。昼間まではじめじめと蒸し暑かったが、日が暮れたからか、北風でも吹いたのか、いつの間にやら空気は […]
第四十四夜 暗い山道をハイビームで照らしながら車を走らせる。 席がお開きになってから車内で酒が抜けるのを待つうちについ眠ってしまい、日付も変わった頃合いである。今更急いで帰っても細君のお叱りは変わらなかろうから、努めて安 […]
第四十二夜 散歩に出たはいいものの、五月の湿った空気に強い陽光が加わって蒸し暑い。 交差点の向こうに公園らしき茂みを見付けて、どこか腰を下ろせる日陰でもないものかと探しに入ることにする。 幸い入ってすぐ、楠の木の大木の陰 […]
第三十九夜 雨上がりの早朝、雨露を湛えた稲の葉が青々と輝く隙間を縫って走る畦道を、犬に引かれて歩く。 と、犬が一鳴きして綱をひときわ強くグイと引く。 犬の視線の先を見ると、道に敷かれた砂利が盛り上がっている。いや、よくよ […]
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