第五十三夜 久方ぶりに雨が止んだので、縁の下から這い出て庭を抜けて散歩に出ようと思ったが、いつもの通りへ出る玄関先に大きな水溜りが出来ている。脚を濡らすのは御免被りたい。庭を家の裏手へ回ると轟々と音がする。背中の毛を逆立 […]
第四十九夜 ピィーヨ、ピィーヨと音がして、はっと目が覚めた。二階の出窓で日向ぼっこをしているうちに、いつものことながら眠っていたらしい。瞳を細めて音のした方を見やると、枯れ草色の鳥が一羽、木に留まって辺りをキョロキョロ見 […]
第四十八夜 「そろそろお前たちも大きくなった」 「ええ、もう翼の大きさは一人前ね」 燕の夫婦が三羽の雛たちにピイピイと宣言する。 「今日からは羽ばたきの練習を始めよう。なに、我々燕は風を切って飛ぶんだ。鴉が大きな体を、無 […]
第四十夜 用水路でカワニナを集めていると、下流の方から腰の曲がった白髪の老爺がやってきて、互いに挨拶を交わす。少し先の荒れた畑の前の畦道に、老爺は担いだ麻袋をどさりと下ろし、続いて腰を下ろした。 畑はまだ起こされていない […]
第四十三夜 柿の木の葉が茂ってきた。面倒ではあるが毎年のこと、仕方がなく重い腰を上げ、殺虫剤を撒くことにする。 噴霧器に殺虫剤を入れ、ポリタンクを背負って木に向かう。風向きを確かめていると、雀が数羽飛んできて、何をしてい […]
第四十一夜 もぐもぐもぐと口を口を動かす度に、しゃりしゃりしゃりと音がして、口中に爽やかな柑橘の香りが広がる。 ――やはり葉っぱは柑橘類に限る。 そう考えながらひとしきり口を動かし、足下の葉を三分の一ほど食べ終えたところ […]
第三十七夜 窓を叩く雨音に気が付くと、キィ・ボードに手を乗せたまま舟を漕いでいた。無理な格好で頭の重量を支えたために、首の後ろの筋肉が凝って頭痛がする。心拍に合わせて目の奥から後頭部へ、重い痛みがうねるように襲う。天気が […]
第三十四夜 革の小物入れのボタンが取れていた。親父の遺品の年代物で、革紐をボタンにぐるりと巻いて閉じるのだが、茶色く変色した凧糸だけを残してそのボタンが無い。出先で紛失したのだろう、家中どこを探しても見つからない。しっと […]
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