第四百九十夜   桶の中のキッチン・タイマが無粋な電子音で時限を報せるので、後ろ髪を引かれる思いで事実上貸し切りの大浴場に別れを告げ、さっと汗を流して脱衣場に戻り、浴衣に着替えた。 髪は部屋に戻って乾かそうとタ […]
第四百八十九夜   居間でヘッドフォンを耳に掛けてエレクトーンの練習をしていると、母が買い物に出る間の留守を宜しくと言って出掛けていった。 暫くすると妹がテーブルにドリルの類を広げてその前に坐る。この期に及んで […]
第四百八十八夜   昼の部の最後のお客をお見送りして、自分とバイトの女性の賄い飯を作りに厨房へ入って鍋を火に掛けた。 彼女もいそいそと食器を下げ、座席、パウチされたメニュ、テーブルと、マニュアル通りの順番に、ゴ […]
第四百八十七夜   九月に入ってから後期の授業が始まるまでの間を選んで、私の所属するサークルでは毎年夏合宿をすることになっていた。 夏の最盛期を過ぎて料金の下がり、人出も少ない平日を中心に宿を借りて、朝から晩ま […]
第四百八十六夜   買い物袋を提げて市営の駐輪場へ入ると、まだ宵の口にもかかわらず、既に自転車はまばらだった。人出が減ったのか、それとも私のように帰宅時間の早い人が増えたのか。そんなことを考えながら買い物袋を自 […]
第四百八十五夜   夕立の中に傘を首で押さえながら、買い物袋を籠に乗せた自転車を押して帰宅すると、何はともあれ空調のリモコンを操作して冷房を入れた。誰も居ない日中に暖められて淀んだ部屋の空気が撹拌されながら、急 […]
第四百八十四夜   朝食を終え、茶を飲みながら疫病騒ぎに孫も来ない退屈な盆休みに何をして過ごそうかと考えて、一昨日迎えたばかりのメダカのことを思い出し、餌の容器を片手に小さな庭へ出た。 といって、私の趣味で迎え […]
第四百八十三夜   「お近付きのしるしにと思いまして、ご迷惑でなければ」 と言って差し出した紙袋を訝しげに受け取ったご主人はしかし、その中身を確認するなり満面に笑みを浮かべ、 「ああこりゃ、こりゃあ。他所の人か […]
第四百八十二夜   勤め先を移って初めての夜勤中、先輩が二度目の定時の巡回にナース・ステーションを出た足音がだんだんと遠ざかり、階段を上って聞こえなくなった。先程教えられた順路を新人の私が一人で回ると申し出たの […]
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