第四百五十二夜

 

買い物袋を提げての帰り道、公園を通り掛かってベンチの上に垂れ下がる藤の花を見て、折角の弁当ならここで食べるのもよかろうかと無人の公園に足を踏み入れた。

久し振りの祝日に、かと言ってこの疫病騒ぎでは何処へ出掛ける気にもならず洗濯と部屋の掃除をしたのだが、そのままうっかり昼を迎えてしまった。昨晩、どうせ今日が休みだからと買い物をせずに帰宅して、冷蔵庫が空だったのを忘れていたのだ。腹を空かせながら買い物に出掛け、帰宅してから調理するのも面倒で、買い出しついでにスーパーの惣菜コーナか弁当でも見繕って、それで済ますことにして家を出て、今はその帰りなのだが、時期が時期だけに公園に人気はない。ベンチに荷物を下ろしている間に買い物帰りと思われる親子連れが入ってきたが、談笑しながら敷地を斜めに通り抜けて出てゆく。ショートカットに使っただけ、という様子だった。

弱い風に揺れながら時折はらはらと降ってくる藤を眺めながら、塩辛い弁当で缶チューハイを飲む。

暫くそうしてのんびりと過ごし、弁当ガラと空き缶とをゴミ箱に捨ててから、少しだけ軽くなった荷物を背負って再び家路に就く。

直ぐにアパートへ着き、尻のポケットからキィ・ケースを取り出して錠を開けて室内に入る。と、どうも中の様子がおかしい。玄関には女物のブーツや傘が並び、見覚えの無い玉簾が掛かっていて部屋の奥が見えない。
慌てて部屋を出て表札を見ると、部屋の番号が一つ違う。どうやら酔って部屋を間違えたらしい。幸い隣人は侵入者に気付かなかったか、不在であったようだ。

安心して自室へ一歩踏み出して、妙なことに気が付いた。隣室の扉の鍵穴に、私は確かに鍵を差し込み、回し、ガチャと音がして錠の外れるのを聞いた。まさか大家が隣と同じ鍵を使いまわしているのだろうか。もしそうだとして、そしてもし隣人が不在なら、開けてしまった錠を掛け直さないで良いだろうか。いや、良くない。

踵を返して扉に向かい、鍵穴に鍵を挿し込むと、先端から三分の一ほどまで入ったところで抵抗があって、それ以上入らない。おかしい。先程は何の抵抗も無く挿し込めた筈だ。

恐る恐るノブに手を伸ばして扉を引くと、鍵はやはり開いていた。

そんな夢を見た。