第三十四夜

革の小物入れのボタンが取れていた。親父の遺品の年代物で、革紐をボタンにぐるりと巻いて閉じるのだが、茶色く変色した凧糸だけを残してそのボタンが無い。出先で紛失したのだろう、家中どこを探しても見つからない。しっとりと冷たい手触りは象牙だったろうか。今入手するのは難しかろうがせめて色合いだけでも似たものが手に入らないかと、ネットでオークション・サイトを開いて「ボタン」と検索する。

ずらりと並んだボタンの数々。テレビのクイズ番組で使われるような押しボタンの類まで表示されるので、何か検索のための単語を考え直さねばならぬ。
――試しに象牙とでも入れてみようか

と、「人が死ぬボタン」なる商品名が見えて気になり、クリックしてみる。商品説明に曰く、
「押すと人が死ぬボタンです。一度押すと、〇・五秒以内に一人だけ地球上の誰か一人が死にます。ただし、一度ボタンを押した後は効果を発揮するまでボタンは無効です。製造後一年ほどで効果を発揮するまでの時間精度が低下しますが、製品の不良ではありません。姉妹品の『人が生まれるボタン』もご利用下さい。〇・二五秒に一人が生まれるすぐれものです」
と。

そんな夢を見た。