第二百四十六夜

 

怪奇モノのTV番組を見え終えた娘達に風呂を促そうとしたときだった。
「じいちゃんも、死神を見たことがあるぞ」
と、ビールで酔った父が上機嫌に笑う。

私が子供の時分には、こんな風に子供と会話をしようとすることのない人だった。子供と孫とでは違うものなのか、それとも現役の頃は仕事に忙しく、心身ともに疲れていてそんな余裕が無かったのか。

ともかく、折角父が話を振ったのだからと風呂は旦那に先に勧め、母から三代四人の女が父の前に並ぶと、
「駅前の将棋サロンでな」
と、父はわざとらしく目を見開き、おどろおどろしく低く響く声色を作って語り始める。

昼過ぎから何局か馴染みの客と指し、そろそろ日も沈む頃になった。そろそろ帰ると言うと、
「息子の来るまで、まだ三十分ある」
と相手の爺様が言う。二人でカウンター席へ移りながら聞くところ、彼はく、息子が車で送迎をしてくれるのだそうだ。言われてみれば、これまで何度かそんな様子を目にしたような気もする。

店の主人と三人で、
「優しい息子さんだ」
「脚が弱って出歩かなくなると、次は頭が弱ると言うが、しっかりしていて羨ましい」
「呆けた後の世話よりはマシだからやってくれとるだけじゃろ」
などと話していると、店の階下に車の止まる音がした。窓から下を眺めたアルバイトの女の子がこちらを振り向いて爺様の名を呼び、
「お迎えがいらっしゃったようですよ」
と言うので、三人して縁起でも無いと笑いあった。

母は失笑、私は苦笑い、娘二人はきょとんとして、
「それで終わり?」
と小首を傾げた。

そんな夢を見た。

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