第百四十一夜

 

行きつけの定食屋で豚カツを頼み、割り箸を擦り合わせてささくれを取り除いていると、後ろのテーブル席から火山の噴火がどうこうという声が聞こえた。そんなニュースも有ったなと、何とは無しにテーブル席を伺う。
「丁度、噴火のニュースの有った朝に夢で見たんですよ」
という若い男へ、上司らしき年配の男が、
「俺も幾度か予知夢のようなものを見たことはあるが、そんなものはただの偶然だよ。長く生きてりゃそういう偶然に出会うこともある」
と笑う。

もう一人の若い男が、それでは夢がない、超能力があったらいいなとちょっとくらいは思うだろうと隣の女性に同意を求めると、彼女はきっぱりと、
「普通が一番ですよ」
と断言する。よくぞ言ったと喝采する上司の横で若い男が、
「どうして?」
と不満顔をすると、女性は、
「私、超能力使えるんですけど、こんな身体に産まれたくなかったですもん」
と眉根を寄せてみせる。
「あ、それは……」
と、何事か心当たりがあるのか上司が止めようとするが、女性は淡々と、
「私、半径五メートル程度の人間を問答無用で不快な気分にさせる能力があるんです。害にしかなりませんけど」
と続ける。どういうことかと尋ねる若手を上司が宥めるが、女性は構わず、
「思春期の頃は嫌な思いもしたし、この能力を隠すために結構お金も掛かるし。まあ市販の製品が効かないレベルの能力者の方よりは悩みは少ないでしょうけど。それでもいいことなんて何にもありませんよ。Tシャツの腋はすぐに黄色くなるし……。兎に角、普通が一番ですよ」。

そこまで聞いたところで定食が運ばれてきてカウンタに向き直り、手を合わせて味噌汁を啜ると、シジミのほのかな苦味が口の中に広がった。

そんな夢を見た。

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