第六夜 大根の剣に大葉を敷いた上へ赤紫色の鰹の刺身を盛り付けた皿が、看板娘の白い、しかし水仕事でやや荒れた手で目の前に差し出された。礼を言いながら、一人座るカウンタ席の気安さでお絞りを脇へ退け、そこへ置かせる。ごゆっくり […]
第四夜 電話が鳴った。瞼越しにも部屋の未だ暗いのが見える。目を閉じたまま枕元へ手を伸ばして携帯電話を手に取り、耳元へ運んで「はい」と呼びかけると、未だ起きていたかと若い男の声が挨拶も無しに返ってくる。随分とぞんざいな口の […]
第三夜 まだ肌寒い初春の午後である。陽溜まりに腰を下ろし、右膝を抱えるようにして足の爪を切っていると、窓越しに 「ちょっと、あんた」 と声がした。威勢のよい八百屋か魚屋の女主人を連想させるその声の有無を云わせぬ強制力に膝 […]
第一夜 万年筆の青黒いインキで細やかに線描された紳士の顔。それだけが意識にあった。 その顔の口髭の下の唇が、発声練習のお手本のように几帳面にこう動いた。 「こんな夢を見た」。 それを聞いて、これは夢だと気付いた。夢だと気 […]
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