第百三十三夜   助手席で釣り竿がクーラ・ボックスにぶつかりカタカタと音を立てるのを聞きながら車を走らせていると、前方で青い野球帽を被った老爺がこちらに手を振っているのが見えた。 朝マヅメもとうに過ぎた昼下がり […]
第百三十二夜   最寄り駅を出て繁華街を抜けると、夏の風鈴の音も、秋の虫の音もない春の夜の住宅街は途端に暗く静かになる。 車の通らぬ裏道の交差点へ差し掛かると、不意に背筋に悪寒が走る。数年前に事故が起き、それを […]
第百三十一夜   たまの休日に散歩へ出て、洒落た喫茶店を見付けた。北欧風の無機質な店内へ入ると、ワイシャツにスラックス姿の女性が接客に現れる。一言二言のやり取りの後、窓際の席に着いて荷物を下ろし、ミルフィーユと […]
第百三十夜   入学式後のホーム・ルームを終えて教室を出て行こうとする担任を呼び止めると、 「何か?」 と言って振り返る。昨年、私の入学当初の自己紹介で「下の息子が就職して肩の荷が下りた」と言っていた割に肌も髪 […]
第百二十九夜   コンビニエンス・ストアで晩酌のツマミを買った帰り、風もなく温かい夜で気分がよく、夜桜でも眺めようかと近所の公園へ足を伸ばした。 地元ではちょっとした大きさの公園だが、花見客が集まるほど桜が植わ […]
第百二十八夜   昼休みに馴染みの定食屋へ入ると、 「ちょっと、聞いた?」 と女将さんが噂話を持ちかけてきた。 一週間ほど前に行方不明になっていた漁師の男が遺体で発見されたという。 亡くなったのは残念だが、海の […]
第百二十七夜   北西の強風に吹かれるまま兄弟たちと親元を離れてどのくらい経ったろうか。私のほうが早く飛べる、否、私のほうが高く飛べると競い合っているうちに、随分と仲間も減ってしまっていた。あるものは上手く風に […]
第百二十六夜   吊革に体重を預け、花粉症でムズムズする鼻を我慢しながら書類に目を通していると、スーツ姿の中年男と若い女が並んで電車に乗り込んできた。 電車が動き出すと、その会話で上司と部下らしいことがわかる。 […]
第百二十五夜   いつの頃からか忘れたが、毎週金曜の深夜になると携帯電話へ見覚えの無い番号から電話が掛かってくるようになっていた。勿論、その電話に出たことは一度もない。 今日もいつもの知らない番号からの電話と確 […]
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