第三百三十一夜   いつもの様に夕飯の買い物から帰って玄関の前へ自転車を停め、蛇腹の門扉を閉める。 花粉も飛び、そろそろ啓蟄というのに、六時を回ると辺りはすっかり暗く空気も冷える。歳で曲がった背中を寒さで更に丸 […]
第三百三十夜   「立ち止まらずに御覧下さい」のアナウンスも虚しく、展示品の前には黒山の人集りが出来、列は遅々として進まないでいた。 列から離れた後方の空間に立ち、特別展示の期限ギリギリまで予定を延ばしたのは失 […]
第三百二十九夜   パート帰りに買い物をして、それを冷蔵庫に詰めながら夕食の献立を考えていると、普段は日溜まりで寝てばかりいる三毛が脛に絡み付いてきた。 買い物ついでおやつを買ってきたとでも思ってねだっているの […]
第三百二十八夜   行きつけの床屋で散髪をしていると、 「いや、参ったよ」 と店主が話し掛けてきた。住宅街にぽつんと店を構える古い床屋で、自分が学生として上京してきた頃からもう十年以上通っている。 「前に、アパ […]
第三百二十七夜   マスタードの効いたソーセージを齧り、口の脂をライムの効いたカクテルで流す。週に一度、今週も折り返しまで頑張った自分への褒美として、仕事帰りに楽しむ「いつもの」メニュだ。 大きな繁華街の隅にあ […]
第三百二十六夜   小春日和の陽気から一転、日の暮れた街の冷たい風に肩を窄めながら、冷蔵庫の中身で何が作れるか思案しつつ帰途を歩く。 駅前と私の住むアパートのある住宅街とを区切るように流れる幹線道路の信号に引っ […]
第三百二十五夜   カップになみなみと注いだココアを片手に書棚を見回し、雑誌を手に取って指定された番号の席を目指してそろそろと歩く。 間もなく扉の空いたままの座敷席を見つけ、荷物を置いて靴を脱ぎ、背後の扉を閉め […]
第三百二十四夜   妻がインフルエンザで床に伏せたために、娘達の弁当など慣れない朝の支度に手間取って、家を出るのが普段より三十分ほど遅くなった。 最寄り駅までの道を人の流れに沿って歩きながら、今晩はどこかで妻の […]
第三百二十三夜   仕事の都合で二週間だけ、急に他県へ赴任することになった。従業員にインフルエンザが蔓延して仕事が回らなくなったのを、各地から人員を掻き集めて補うためだ。 僅かな期間の赴任だが、それなりの人数を […]
最近の投稿
アーカイブ