第百五十六夜   沢の脇の山道は、梅雨に入り色を濃くした木々の葉に覆われて、低い雲の下に延々と薄暗く濡れてくねくねと登っている。 季節毎に表情を変えるその道を、私は子供の時分からほとんど毎日通って学校へ行き帰り […]
第百五十五夜   電話が鳴った。 温くなった珈琲を片手に、暫く呼び出し音を聞きながら読書を続けるが、誰も電話に出る気配がない。 妻と娘が映画を観るといって出掛けていたのを思い出し、カップを置いて受話器を取りにソ […]
第百五十四夜    パァン 梅雨空に似合わぬ乾いた破裂音が耳をしたたか貫いたのは、しとしとと雨の降り続く夕暮れの図書館でのことだった。 一体何が起きたのか。 貧乏学生の鞄を盗むものも居まいと、取り急ぎ貴重品だけ […]
第百五十三夜   「この間、変なものを見ちゃってさ……」 と、半ば空いたビールのグラスを片手に友人が苦笑いを浮かべる。何の話だと水を向ける私に、 「本当に変な話なんだが……」 と前置きして彼は話し始める。 大型 […]
第百五十一夜   午前中の外回りに区切りが付いて、どこかで昼食をと思いながら社用車に乗り込む。 曲がりくねった道を抜けて郊外の幹線道路へ出て、白いセダンの後に付いて走る。この手の道沿いには広い駐車場を備えたファ […]
第百五十一夜   日課のジョギングへ出ようと寝間着からジャージに着替えて家を出る。毎朝同じ時刻に家を出るのだが、夏至も近くなって随分と明るくなったのがわかる。気温も高く走っていて負担に感じ始めたので、もう少し時 […]
第百五十夜   「チュン子、チュン子」。 そう名前を呼びながら裏山を歩き続けてどれくらい経ったろうか。喉も枯れ、脚も棒になって久しい。 それだけ探し回っても、妻の逃してしまったチュン子は見当たらなかった。広い裏 […]
第百四十九夜   昼の山道を登り、途中の展望台に車を停める。トイレにでも行き、その横に設置されている自動販売機で飲み物でも買おうかと車を降りる。 ここからは市街地が一望でき、特に夜景が美しいとしてデートにはうっ […]
第百四十八夜   公園の水飲み場に溜まった水で行水をしていると、フィヨフィヨフィヨと聞き慣れぬ声がする。 嘴で翼の羽根を梳かしながらチラと見ると、ここらではあまり見ない、茶色い斑の鳥が降りてきた。冠のような飾り […]
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