第百五十七夜   友人に誘われて、人里離れた山奥へ早朝から同僚が合計四人、一台の車に乗り合わせてドライブをしていた。高速道路を下りて一時間ほど走ると、辺りは一面田畑の緑が広がり、その中に点在する一軒の家でセダン […]
第百五十夜   「チュン子、チュン子」。 そう名前を呼びながら裏山を歩き続けてどれくらい経ったろうか。喉も枯れ、脚も棒になって久しい。 それだけ探し回っても、妻の逃してしまったチュン子は見当たらなかった。広い裏 […]
第百三十六夜   畳の部屋の中央に据えられた丸い卓袱台には簡単な朝餉が載せられ、見知らぬ一家が忙しくも楽しげに箸を動かしている。 それをガラスのあちらに歪んだ形で眼下に眺める私は、どうやら神棚に置かれているらし […]
第百三十五夜   冬眠でなまった身体を沼のほとりで一頻り動かした後、叢で羽虫のランチ・タイムと洒落込んでいたところ、 「おい、蛙」 と竜女様からお呼びがかかって祠へ伺う。 恭しく頭を下げて 「ここに」 と申し上 […]
第百二十七夜   北西の強風に吹かれるまま兄弟たちと親元を離れてどのくらい経ったろうか。私のほうが早く飛べる、否、私のほうが高く飛べると競い合っているうちに、随分と仲間も減ってしまっていた。あるものは上手く風に […]
第百二十六夜   吊革に体重を預け、花粉症でムズムズする鼻を我慢しながら書類に目を通していると、スーツ姿の中年男と若い女が並んで電車に乗り込んできた。 電車が動き出すと、その会話で上司と部下らしいことがわかる。 […]
第百十四夜   ハイキングに出掛けて見付けた山小屋風の喫茶店で、静かに珈琲を楽しんでいると、ピィピィと力強い鳥の声が窓外から聞こえた。 それに釣られて庭に目を向けると、冬の陽のよく当たる斜面に黄色い実を付けた常 […]
第百三夜   後ろ手に施錠しながらハイ・ヒールを脱ぎ、灯もつけぬままベッドに突っ伏す。 スーツを脱がねば皺になる。化粧を落とさねば肌が荒れる。コンタクト・レンズを外さねば目が傷む。それら全てがあまりにも億劫で、 […]
第九十三夜   めっきり冬めいて水気の多い地面がすっかり冷えきっているためか、店の空気はなかなか暖まらない。 ココアでも飲もうと、カウンター裏の小さな台所で牛乳を鍋に入れて火にかける。 ココア・パウダーの包装の […]
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