第七百五十夜    日射しこそ春めいて暖かながらまだ空気の凛と冴えた朝、通勤列車を降りると改札へ向かう人混みに見知った華奢な背中を見つけた。ちょうど昨日一人で訪れた映画館でたまたま鉢合わせ、せっかくだからと上映 […]
第七百四十九夜    放課後の職員室で学年末試験の解答用紙を整理していると、隣の机へ教頭がやってきて、 「これ、例のもの」 と同僚へ掌大の白い紙袋を渡した。同僚はさも嬉しそうにそれを受け取り、お代はといって財布 […]
第七百四十八夜    関東平野の北部の街の大学で知り合った友人と山へサイクリングに出掛けた。後期の試験とレポートが片付いて多少暇ができたのだが、帰省は正月にしたばかりだし、かといって街に学生の財布に相応しい娯楽 […]
第七百四十七夜    在宅ワークを終えて夕飯の買い物から帰り、いつもの習慣で郵便受けを覗くと、宅配の不在票が入っていて首を傾げた。郵便受けは毎日カラにしているし、今日は一日中在宅で、呼び鈴が鳴らされていれば気が […]
第七百四十五夜    一つ小さな仕事を片付けてフロントへ戻ると、上司が営業スマイルを浮かべながらPCを操作していた。何かあったのかと尋ねると、彼女はこちらに視線さえ向けずに手を動かしながら、先ほどチェックインし […]
第七百四十四夜    夕食を終えて皿洗いをしていると、妹の部屋からドスンと重い音がしたかと思うと、何か硬いものの転げるような音が続いた。目を丸くした父が慌てて立ち上がり、しかし年頃の娘に遠慮をしてまず私に部屋を […]
第七百四十三夜    夕食後にひと暴れして眠り込んでしまった息子を布団に寝かせた後、帰宅した妻の夕食に付き合って軽く酒を飲んでいると、 「会社の同僚の住んでいる近所に、良いかもしれない物件があるらしいんだけど」 […]
第七百四十二夜    連休明け、同僚が何やら浮かぬ顔をしてやってきた。朝から随分とお疲れかと尋ねると、小さな子供がいるから体力的に疲労をするのは確かだが、浮かぬ顔を隠せていなかったのならそれは別の要因だと言って […]
第七百四十一夜    昼休みに外食から戻ってきた同僚が、小さな香水の瓶の入ったピンク色のラバーケースを指に引っ掛けて揺らしながらデスクに戻ってきた。スーツに身を包んだ巨体にまるで似合っていない。  それを見た後 […]
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