第三十夜 窓を叩く雨音に気が付くと、キィ・ボードに手を乗せたまま舟を漕いでいた。無理な格好で頭の重量を支えたために、首の後ろの筋肉が凝って頭痛がする。心拍に合わせて目の奥から後頭部へ、重い痛みがうねるように襲う。天気が悪 […]
第三十九夜 雨上がりの早朝、雨露を湛えた稲の葉が青々と輝く隙間を縫って走る畦道を、犬に引かれて歩く。 と、犬が一鳴きして綱をひときわ強くグイと引く。 犬の視線の先を見ると、道に敷かれた砂利が盛り上がっている。いや、よくよ […]
第三十夜 安アパートの二階にある自室は五月晴れで蒸し暑く、なかなか寝付かれない。 さっぱりしたものを飲みたくなり、財布を手にサンダルをつっかけて部屋を出る。階段を下ったところにアパートの設置した自販機があるので、鍵の心配 […]
第三十七夜 窓を叩く雨音に気が付くと、キィ・ボードに手を乗せたまま舟を漕いでいた。無理な格好で頭の重量を支えたために、首の後ろの筋肉が凝って頭痛がする。心拍に合わせて目の奥から後頭部へ、重い痛みがうねるように襲う。天気が […]
第三十六夜 間もなく列車が到着するとのアナウンスが聞こえ、ホームへ続く階段を急いで上ると、祝日の昼食時で人は疎らであった。 二、三人ごとに固まって列車を待つ列ともいえぬ短い列の、手近かなところに目星をつけて後に付くと、右 […]
第三十五夜 残業に区切りが付いた。鞄を肩に掛けて席を立ち、事務所を消灯して施錠する。共用部分は既に照明が落とされて暗い。エレベータ・ホールでエレベータを待つ。 と、共用廊下の先の灯が気になった。灰皿付きの大きな空気清浄機 […]
第三十四夜 革の小物入れのボタンが取れていた。親父の遺品の年代物で、革紐をボタンにぐるりと巻いて閉じるのだが、茶色く変色した凧糸だけを残してそのボタンが無い。出先で紛失したのだろう、家中どこを探しても見つからない。しっと […]
第三十三夜 目の前を蝿が飛ぶのが見えたので、舌を伸ばして捕らえて口へ運ぶ。シャリシャリとした顎触りが心地好い。動かなくなったのを確かめてから嚥下する。腹の中で暴れられると不愉快なのである。 と、視界の隅に朱く細長いものが […]
第三十二夜 たまには手を抜こう。 そう思いながら机に向かい、日記帳を開いて万年筆を執る。 今日は低気圧のせいか頭が重いし、明日は朝早くから仕事が入っている。気合を入れて書いたところで誰が読む訳でなし、こんな日くらいは手を […]
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