第百七十夜   今日は盆休みの初日だから、朝食後の珈琲を普段よりゆっくりと味わえる。デザートに甘ものをつまみながら妻と他愛ない会話をしていると、小学二年生の息子がようやく起きてきたので、夏休みだからといってだら […]
第百六十九夜   社会人二年目、学生時代の友人達ともやや疎遠になったが、かといって新たに友人関係が構築されるわけでもない。折からの猛暑に郷里の夏の暑さはもう幾らかマシだったかと懐かしみ、冷房代の浮く分で学生時代 […]
第百六十八夜   木枝に羽根を休めながら、辺りのクヌギの幹に集る甲虫達を品定めしていると、里の方からクマザサの揺れる音がする。イノシシでも来たかと振り向いてみれば人間の若い女である。里山の森へ僅かに漏れる月明か […]
第百六十七夜   行楽シーズを山で過ごそうという下心で応募してみたものの、山小屋のランチタイムは忙しい。漸く客が引けた午後三時、休憩に入る前に外のゴミ箱を片付けるのだと教えられ、店長と共に店の外へ出る。 籠から […]
第百六十六夜   日照り続きで水嵩の減った川の流れは緩く、川面はいつもに増して滑らかに入道雲を映している。 その空に円い波紋が音もなく生まれ、川の流れに間延びして広がる。 アメンボだ。 群れとはぐれでもしたか、 […]
第百六十五夜   台風の接近で電車が止まったため、定時を回ると社内で小規模な宴会が開かれることになった。 多くが電車通勤であったし、自転車や自動車の連中からも皆が社に泊まるならと言って居残ると言い出す者があって […]
第百六十四夜   社用車を走らせて夏の夕暮れの住宅街からの帰り道、もう午後も七時を回ったというのに空は朱に染まって、通りもまだ明るい。 薄暮。黄昏時ともいう。 こういう中を運転していると、教習所で脅しのように言 […]
第百六十三夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、新しい都市伝説、仕入れちゃった!」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の […]
第百六十二夜   濡れタオルを頭に載せながら昼食休憩を炎天下の公園でとった後、木陰のベンチに腰掛けたまま噴水を眺めながら呆けている。南海上から押し寄せた水蒸気は九州から岐阜の辺りにまで豪雨をもたらして力尽き、関 […]
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