第百一夜   何やら嗅ぎ慣れぬ甘い香りに意識が覚醒した。目を開くより先に、糊の利いたシーツが地肌に触れる感触でそこがホテルの一室であることを思い出す。 目を開けて上体を起こすと、掛け布団がずれて横に眠る女の肩口 […]
第百九夜   暖房の効いた始発の電車から、透き通った早朝の空気の中ヘ降り立つ。スーツ姿の休日出勤の同志がちらほらと改札への階段へと吸い込まれてゆく。 駅を出てロータリを回り、簡単な朝食を買おうと店を探すと、ちょ […]
第百八夜   取引先と飲んだ酒がようやく抜け、夜道に車を出したときにはもう日付も変わっていた。 都市部を抜けると対向車も少なく、冴えた冬の空気に素通しのLEDの街灯が目に刺さる。十分に酒の抜けた頭は冷静で、自然 […]
第百七夜   「どうする?」 という友人の声が冴えた堂に響き、破れた戸から冬山の闇の雨音の中へ吸い込まれてゆく。 「どうすると言っても……」 灯は堂を朧げに照らすこのガス・ランタンに、LEDの小さな懐中電灯しか […]
第百六夜   正月呆けの抜けぬ身体にスーツを纏って家を出ると、早朝の凛と硬い空気に思わず首が竦む。新暦で年が明けたと言っても、春はまだまだ先である。 コートの襟に頬を埋めながら階段を下り舗装路に出る。寒々しく枯 […]
第百五夜   仕事柄、正月は掻き入れ時で休みとは縁が無い。その分、他の時期に纏まった休みを貰えるが、親とも郷里の友人とも都合が合う訳でなし、もう何年も実家へ戻っていない。 年が変わるといっても、正月セールのため […]
第百四夜   忘年会の酒の残って重い頭と体とを無理に布団の外へ引きずり出して早起きをした。昨晩、酒席特有の特に意味の無い会話を上の空で聞き流しながら、年末をできるだけぐうたら過ごすための計画を立てており、その第 […]
第百三夜   後ろ手に施錠しながらハイ・ヒールを脱ぎ、灯もつけぬままベッドに突っ伏す。 スーツを脱がねば皺になる。化粧を落とさねば肌が荒れる。コンタクト・レンズを外さねば目が傷む。それら全てがあまりにも億劫で、 […]
第百二夜   小さな商談のために、初対面の女性と駅前で待ち合わせをしていた。約束の十分前からふくろうのオジェの前に立っていると伝えたが、たっぷり五分を待たされて漸く先方から声を掛けられた。 「すみません、私も五 […]
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